敷金精算書の作り方 -- 管理会社が使えるテンプレートと記載例

退去が発生するたびに作成する敷金精算書。「いつも同じ書式で作っているが、本当にこの内容で問題ないのか」「借主から『内訳が分からない』と問い合わせが来た」――管理会社の実務担当者なら、一度は感じたことがあるはずです。

敷金精算書は、預かった敷金から原状回復費用や未収賃料を差し引き、返還額(または追加請求額)を借主に通知する書類です。記載内容に不備があると、精算トラブルの原因になるだけでなく、管理会社としての信頼にも関わります。

この記事では、国交省ガイドラインに準拠した敷金精算書の作り方を、記載項目・作成手順・トラブル防止策の3軸で解説します。

敷金精算書とは

敷金精算書(解約精算書とも呼ばれる)は、賃貸借契約の終了時に、敷金の精算内容を借主に明示するための書類です。

管理会社の実務では、退去のたびに以下の流れで精算書を作成します。

  • 退去立会い → 損耗箇所の確認・記録
  • 原状回復工事の見積もり取得
  • 精算書の作成 → 借主への送付
  • 返金処理(または追加請求)

法的には、改正民法622条の2で敷金の定義と返還義務が明文化されました。「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に、受領した敷金から賃貸借に基づいて生じた債務の額を控除した残額を返還する義務があります。

精算書は法令で書式が定められているわけではありませんが、借主への説明責任を果たし、トラブルを未然に防ぐうえで不可欠な実務書類です。

「解約精算書」「敷金返還明細書」「退去精算書」など呼称はさまざまですが、役割は同じです。社内で呼び方を統一しておくと、業務フローが整理しやすくなります。

敷金精算の基本ルール

精算書を作成する前に、負担区分の判定基準を押さえておく必要があります。根拠となるのは国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」と、改正民法621条です。

通常損耗と善管注意義務違反の区分

改正民法621条は、賃借人の原状回復義務について次のように定めています。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。

つまり、通常の使い方で生じた損耗(家具の設置跡、日照による変色など)は貸主負担。故意・過失や善管注意義務違反による損傷(タバコのヤニ汚れ、ペットによるキズなど)のみが借主負担です。

精算書に記載する借主負担額は、この区分に基づいて算定します。根拠が曖昧なまま請求すると、後から「ガイドラインに沿っていない」と指摘されるリスクがあります。詳しい区分の考え方は国交省ガイドライン解説で整理しています。

経年劣化と耐用年数

借主負担と判定した損傷でも、全額を請求できるわけではありません。ガイドラインでは、経過年数に応じて借主の負担割合が減少する仕組みを採用しています。

主な耐用年数の目安は次のとおりです。

  • クロス(壁紙) — 6年(残存価値1円)
  • カーペット・畳表 — 6年
  • クッションフロア — 6年
  • フローリング — 部分補修は経過年数を考慮しない。全面張替えの場合は建物の耐用年数で判断
  • 設備機器(エアコン・給湯器など) — 6〜15年(種類による)

たとえばクロスの場合、入居4年で退去したときの借主負担割合は「(6年 - 4年)÷ 6年 = 約33%」です。張替え費用が6万円なら、借主負担額は約2万円となります。

精算書にはこの計算過程を記載しておくと、借主の納得感が格段に上がります。費用相場の詳細は原状回復の費用相場ガイドを参照してください。

特約の取り扱い

敷引き特約、償却特約、クリーニング費用特約など、契約書に特約がある場合は精算書にも反映します。ただし、特約が有効と認められるには一定の要件があります。

  • 借主が特約の内容を認識していること
  • 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること
  • 特約の内容が暴利的でないこと(消費者契約法10条)

最高裁判例(平成17年12月16日)では、敷引き特約について「敷引金の額が高額に過ぎる場合」に消費者契約法10条により無効となりうるとしています。精算書に特約を反映する際は、契約書の特約条項を再確認してください。

敷金精算書に記載すべき項目

精算書の記載項目に法定の書式はありませんが、トラブルを防ぐために以下の項目を網羅することを推奨します。

記載項目内容備考
物件名・部屋番号対象物件の特定契約書の記載と一致させる
借主名契約者の氏名
契約期間入居日〜退去日経年劣化率の算定に使用
預かり敷金額契約時に預かった金額
原状回復工事費用部位別の内訳(単価 x 数量)「一式」表記は避ける
経年劣化率の適用各項目の耐用年数と残存割合ガイドライン準拠
借主負担額工事費用 x 借主負担割合
貸主負担額工事費用 - 借主負担額
特約に基づく費用クリーニング費用、償却額など契約書の条項番号を明記
未収賃料・日割り家賃退去月の日割り精算
差引返還額敷金 - 借主負担額 - 未収賃料マイナスの場合は追加請求額
返金先口座借主が指定した振込先退去時に確認済みのもの
振込予定日返金の時期退去後1ヶ月以内が目安

原状回復工事の費用内訳は、「一式」ではなく部位・単価・数量を明記するのが鉄則です。「クロス張替え 1,200円/m2 x 40m2 = 48,000円」のように記載すれば、借主が金額の妥当性を確認できます。

内訳の不透明さは精算トラブルの最大要因です。コスト最適化ガイドでも触れていますが、部位別単価を開示する管理会社ほどオーナーと借主双方の信頼を得やすい傾向があります。

敷金精算書の記載例

実際の記入イメージを示します。1K(25m2)の物件で入居期間4年のケースです。そのまま自社の精算書に項目構成を転用できます。

基本情報

項目記載内容
書類名敷金精算書(解約精算書)
作成日令和8年4月15日
物件名サンハイツ第2 201号室
所在地東京都世田谷区○○1-2-3
借主名山田 太郎 様
契約期間令和4年4月1日 〜 令和8年3月31日(4年間)
退去日令和8年3月31日
預かり敷金80,000円(家賃1ヶ月分)

原状回復工事費用の内訳

工事項目単価数量金額耐用年数入居年数借主負担割合借主負担額
クロス張替え(居室・タバコのヤニ)1,200円/m230m236,000円6年4年33%11,880円
クロス張替え(キッチン・油汚れ)1,200円/m28m29,600円6年4年33%3,168円
クッションフロア補修(飲み物シミ)3,500円/m24m214,000円6年4年33%4,620円
小計(原状回復工事)59,600円19,668円

経年劣化率の計算: 耐用年数6年の部材は「(6年 - 4年)÷ 6年 = 33%」が借主負担割合。ガイドラインでは6年経過で残存価値1円とする減価償却の考え方を採用しています。

特約に基づく費用

項目金額根拠
ハウスクリーニング(契約書第12条に基づく)35,000円契約時に説明・合意済み

クリーニング費用特約は、契約書の条項番号と「契約時に借主の合意を得ている」旨を明記します。

精算計算

項目金額
(A) 預かり敷金80,000円
(B) 借主負担額(原状回復)19,668円
(C) ハウスクリーニング(特約)35,000円
(D) 未収賃料0円
(E) 差引返還額 (A) - (B) - (C) - (D)25,332円

返金情報

項目記載内容
返金額25,332円
振込先○○銀行 ○○支店 普通 1234567 ヤマダ タロウ
振込予定日令和8年5月15日(退去後45日以内)

添付書類

  • 退去立会い確認書(借主署名済み)の写し
  • 原状回復工事見積書
  • 損耗箇所の写真記録(6枚)

この記載例のポイントは3つあります。工事費用を部位別に分けて単価と数量を明示していること。経年劣化率の計算過程を示して借主負担額の根拠を見せていること。特約に基づく費用は契約書の条項番号を記載していること。この3点を押さえておけば、「内訳が分からない」「根拠が不明」という問い合わせの大半を防げます。

なお、返還額がマイナス(追加請求)になるケースでは、精算書に「不足額のお支払いについて」として振込先口座と支払期限を記載します。

敷金精算書の作成手順

退去が発生してから精算書を送付するまでの流れを5つのステップで整理します。

ステップ1: 原契約の確認

精算書を作成する前に、賃貸借契約書を開いて以下を確認します。

  • 預かり敷金額(保証金の場合は償却条項の有無も)
  • 特約条項(クリーニング費用、敷引き、鍵交換費用など)
  • 入居日(経年劣化率の起算日)

特約がある場合は、精算書に「契約書第○条に基づく」と根拠を記載できるよう、条項番号を控えておきます。

ステップ2: 退去立会い結果の整理

退去立会いで記録した損耗箇所・程度を一覧にします。退去立会いの具体的な確認項目と記録方法は退去立会いチェックリストにまとめています。

精算書の根拠資料として、以下を整理しておきます。

  • 損耗箇所の一覧(場所・内容・程度)
  • 写真記録(入居時と退去時の比較があればなお良い)
  • 借主が立会い時に確認・署名した記録

ステップ3: 原状回復工事の見積もり取得

施工業者から見積もりを取得し、部位別の費用を確定させます。精算書の工事費用欄に転記するため、見積書も「一式」ではなく部位別に出してもらうよう依頼してください。

相見積もりを取る場合は、この段階で行います。見積もりの比較方法はコスト最適化ガイドの相見積もりセクションを参照してください。

ステップ4: 負担区分の判定

見積もり項目ごとに、ガイドラインに基づいて貸主・借主の負担区分を判定します。

判定の手順は次の3点です。

  1. その損耗は通常損耗か、善管注意義務違反か
  2. 借主負担の場合、該当部位の耐用年数は何年か
  3. 入居年数から経年劣化率を算定し、借主負担額を計算

判断に迷うケースがあれば、ガイドラインの別表を参照するか、オーナーに判断を仰ぎます。管理会社が独断で負担区分を決めると、後からオーナーとの認識齟齬が生じることがあります。

ステップ5: 精算書の作成・送付

上記の情報をもとに精算書を作成し、借主に送付します。送付時の留意点は以下のとおりです。

  • 退去後1ヶ月以内を目安に送付する
  • 工事見積書(または費用明細)を添付する
  • 返金の場合は振込予定日を明記する
  • 追加請求の場合は支払期限と振込先を明記する

精算書を一方的に送りつけるだけでなく、電話やメールで概要を事前に説明しておくと、借主からの問い合わせを減らせます。

精算書作成でよくあるミスと対策

管理会社の現場で起きやすい精算書のミスを4つ挙げます。

経年劣化率を反映していない

クロスやカーペットの費用を入居年数に関係なく全額請求しているケースがあります。ガイドラインでは経過年数に応じた減額が基本です。反映しないまま請求すると、借主から減額交渉を受ける確率が上がります。

「一式」表記で内訳が不明

「原状回復費用 一式 150,000円」のような記載は、借主にとって何にいくらかかっているのか分かりません。項目・単価・数量を分けて記載し、金額の根拠を示してください。

特約の根拠が記載されていない

クリーニング費用や鍵交換費用を特約に基づいて請求する場合、精算書に「契約書第○条に基づく」と根拠を記載していないと、後から「聞いていない」と言われるリスクがあります。

送付が遅い

退去後2〜3ヶ月経っても精算書が届かないと、借主の不信感が高まり、トラブルに発展しやすくなります。なお、敷金返還請求権の消滅時効は改正民法166条に基づき「権利を行使できることを知った時から5年」です。長期間放置すること自体が管理上のリスクになります。

敷金精算のトラブルを防ぐ3つの実務ポイント

精算書の内容だけでなく、前後の業務フローを整えることでトラブル発生率を下げられます。

退去立会いで合意形成する

精算トラブルの多くは「言った・言わない」に起因します。退去立会いの場で損耗箇所と程度を借主と一緒に確認し、確認書に署名をもらうことで、精算段階での認識齟齬を大幅に減らせます。

立会い時に「この箇所は借主負担になる可能性があります」と口頭で伝えておくだけでも、精算書を受け取ったときの借主の心理的ハードルが下がります。

根拠資料を添付する

精算書だけでなく、以下の資料を一緒に送付すると、借主からの問い合わせ件数が減ります。

  • 退去時の写真(損耗箇所ごと)
  • 工事見積書の写し
  • ガイドラインの該当ページの抜粋(経年劣化率の根拠)

「この金額は何を根拠に算出したのか」という質問に、書面で回答できる状態を作っておくことが管理会社の信頼につながります。

入居時と退去時の両方で説明する

入居時に「退去時はガイドラインに準拠して精算します」と説明しておくと、退去時の精算がスムーズに進みます。入居案内に精算の考え方を記載したリーフレットを同封している管理会社もあります。

退去連絡を受けた段階で「精算の流れ」を案内し、立会い → 精算書送付 → 返金のスケジュール感を共有しておくのも有効です。


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