退去立会いは、原状回復費用の算定根拠を現場で確認する業務です。ここでの見落としや判定ミスが、入居者とのトラブルやオーナーへの過剰請求につながります。
一方で、退去が集中する2-4月は1日に複数件の立会いをこなすケースも珍しくありません。担当者の経験に頼った属人的な運用では、品質のばらつきが避けられません。
この記事では、退去立会いで確認すべき箇所と判定基準をチェックリスト形式で整理します。新人担当者でも一定の品質で立会いを実施できる標準フローとしてお使いください。
立会い前の準備
立会い当日までに以下を手配しておきます。
入居時の記録(入居時チェックシート、写真)を手元に用意してください。入居前からあった傷や汚れを退去時の損傷と混同しないために必要です。入居時記録がない場合は、判定が難しい箇所について入居者に確認する姿勢が求められます。
契約書の特約条項も事前に確認しておきましょう。ハウスクリーニング特約や畳表替え特約がある場合は、その内容と金額が立会い時の説明に影響します。
持ち物はスマートフォン(写真撮影用)、スケール(定規)、チェックシート(紙またはタブレット)、ペンライト(暗い箇所の確認用)です。
部屋別チェックリスト
各居室(リビング・寝室・洋室)
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 壁紙(壁面) | 汚れ、傷、剥がれ、変色 | 日焼け、画鋲穴、ポスター跡 | タバコのヤニ、釘穴、落書き |
| 壁紙(天井) | 汚れ、変色 | 照明器具の跡 | タバコのヤニ(天井全面) |
| フローリング | 傷、シミ、へこみ、ワックス剥がれ | 家具跡、自然な小傷 | キャスター傷、ペット爪跡、引きずり傷 |
| 畳 | 焼け、シミ、破れ | 日焼けによる変色 | タバコの焦げ、飲み物のシミ |
| 巾木・窓枠 | 傷、汚れ | 自然な汚れ | 衝撃による破損 |
| 窓・網戸 | 動作、破れ、汚れ | 経年によるゴムの劣化 | 破れ、大きなゆがみ |
| エアコン | 動作、汚れ、リモコン有無 | 内部のほこり(通常使用) | フィルター未清掃による著しい汚れ |
| 照明 | 動作、カバー状態 | 蛍光灯の消耗 | カバーの破損 |
キッチン
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| シンク | 水垢、錆、傷 | 軽微な水垢 | 錆の放置、著しい汚れ |
| レンジフード | 油汚れ | 軽微な油汚れ | 清掃を怠った油の蓄積 |
| コンロ周り | 油汚れ、焦げ | 軽微な使用跡 | 清掃を怠った焦げ付き |
| 壁面タイル | 油汚れ | 軽微な使用跡 | 油染みの浸透 |
| 収納内部 | 汚れ、臭い | 軽微な使用跡 | カビ、著しい汚れ |
浴室
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 浴槽 | 変色、傷、水垢 | 経年変色 | 入浴剤による著しい変色 |
| 壁面・天井 | カビ、水垢 | 軽微なカビ | 換気を怠った広範囲のカビ |
| コーキング | カビ、劣化 | 経年劣化 | カビ放置によるひどい変色 |
| 排水口 | 詰まり、汚れ | — | 髪の毛等の詰まり放置 |
| 鏡 | 曇り、水垢 | 軽微な水垢 | 清掃不足による頑固な水垢 |
| シャワーヘッド | 水垢、動作 | 軽微な水垢 | 破損 |
トイレ
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 便器 | 黄ばみ、水垢 | 軽微な使用跡 | 清掃を怠った著しい黄ばみ |
| 床(CF) | 汚れ、シミ | 軽微な変色 | 洗剤や薬品によるシミ |
| タンク | 水垢、カビ | 軽微な汚れ | — |
| 換気扇 | ほこり、動作 | 軽微なほこり | — |
洗面所
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 洗面台 | 水垢、傷、排水 | 軽微な水垢 | ヘアカラー等による染み |
| 鏡 | 曇り、傷 | 軽微な曇り | 破損 |
| 床(CF) | 汚れ、シミ | 軽微な変色 | 漂白剤による脱色 |
玄関・廊下・その他
| 確認箇所 | 確認内容 | 通常損耗の目安 | 借主負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 玄関ドア | 傷、汚れ、動作 | 経年劣化 | ぶつけた傷 |
| 下駄箱 | 汚れ、臭い | 軽微な汚れ | カビ |
| 廊下の床 | 傷、汚れ | 自然な小傷 | 引きずり傷 |
| インターホン | 動作 | — | 故障(過失の場合) |
| 鍵 | 本数確認 | — | 紛失 |
判定に迷うケースの対処
退去立会いでは「通常損耗か借主負担か」の判断が難しいケースが出てきます。判断の土台となる国交省ガイドラインの基準は事前に把握しておいてください。
冷蔵庫の背面にサビ跡がある場合は、発生原因が通常の使用によるものかどうかで判断が分かれます。サビの付着に気づきながら長期間放置した場合は善管注意義務違反の可能性がありますが、短期間での自然発生であれば通常損耗です。立会い時点で即断できない場合は「確認の上ご連絡します」として持ち帰ってください。
エアコン設置のためのビス穴は、生活に必要な設備の設置として通常損耗と判断される傾向があります。一方、壁面に多数のビスを打って棚を設置した場合は通常の使用を超えると判断されることがあります。
判断が難しい箇所は、入居者にその場で判定を伝えるのではなく、写真を記録した上で社内で確認するフローにしておくと、トラブルを防ぎやすくなります。
写真記録の撮り方
退去立会いで撮影する写真は、見積もりの根拠資料として、また入居者やオーナーへの説明資料として使います。
撮影のルールを決めておくと、担当者が変わっても記録の品質が安定します。
各部屋の全景を4方向から撮影してください。損傷箇所はアップで撮り、スケール(定規やメジャー)を添えて傷の大きさが分かるようにします。エアコンや給湯器のリモコンは表示画面を含めて撮影し、動作確認の記録にします。
撮影日時が記録に残るカメラ設定になっているかも確認してください。後日「この写真はいつ撮ったか」が争点になることがあります。
立会い後の業務フロー
立会いが終わったら、チェックシートと写真を業者に共有して見積もりを依頼します。立会い当日中に写真をクラウドにアップロードし、翌営業日に業者へ見積もり依頼を出すのが標準的なスピード感です。
見積もりが届いたら、間取り別の費用相場を参照しながら立会いで確認した内容と照合します。立会い時に「通常損耗」と判定した箇所が借主負担として見積もりに含まれていないか、逆に損傷箇所の見落としがないかを確認してください。
入居者への精算書提示は、退去から2週間以内が目安です。精算が遅れるほど入居者の不信感が増し、トラブルに発展するリスクが上がります。
退去から再募集までのリードタイム短縮については、空室期間の短縮術も参照してください。敷金精算書の作成については敷金精算書の作り方で、記載すべき項目と記入例を解説しています。
退去立会いから原状回復工事の発注まで、スムーズに進めたい管理会社様は賃貸リフォーム研究所の無料見積もりをご利用ください。立会い写真をお送りいただければ、即日でお見積もりを返送します。