原状回復の負担割合 計算ガイド -- 耐用年数で借主負担はいくらになる

退去費用の見積書に「クロス張替え 5万円」と記載されていた場合、その全額を借主が負担するわけではありません。国土交通省のガイドラインでは、入居年数に応じて借主の負担割合が下がる仕組みが定められています。

この負担割合の計算が正しく反映されているかどうかで、退去費用は大きく変わります。入居6年以上なら、クロスの借主負担は実質ゼロです。

負担割合の基本ルール、計算方法、部位別の耐用年数一覧、見積書の確認方法を順に解説します。

原状回復の負担割合の基本ルール

通常損耗は貸主負担、故意・過失は借主負担

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、損耗を2つに区分しています。

A区分(貸主負担)は、経年変化と通常の使用による損耗です。日焼けによる壁の変色、家具の設置跡、画鋲の穴などが該当します。これらは賃料に含まれているため、借主に請求できません。

B区分(借主負担)は、借主の故意・過失による損耗です。タバコのヤニ汚れ、ペットによる傷、飲み物のシミ放置、引っ越し時の傷などが該当します。

借主負担にも経年劣化控除がある

B区分の損耗であっても、借主が全額を負担するわけではありません。設備や内装には耐用年数が設定されており、入居期間に応じて借主の負担割合が下がります。これが経年劣化控除です。

新品の状態からの価値を100%とすると、耐用年数が経過した時点で残存価値は1円(実質ゼロ)になります。入居期間が長いほど設備の残存価値は低くなるため、借主の負担割合も小さくなるという考え方です。

耐用年数と負担割合の計算方法

計算式(直線法)

借主の負担割合は以下の計算式で求めます。

借主の負担割合(%) = (耐用年数 - 入居期間) ÷ 耐用年数 × 100

たとえばクロス(壁紙)の耐用年数は6年です。入居3年で退去した場合の計算はこうなります。

(6年 - 3年) ÷ 6年 × 100 = 50%

クロスの張替え費用が5万円であれば、借主の負担額は5万円 × 50% = 2.5万円です。

クロスの入居年数別負担割合

入居年数借主の負担割合張替え5万円の場合の借主負担
1年83%41,500円
2年67%33,500円
3年50%25,000円
4年33%16,500円
5年17%8,500円
6年以上実質0%1円

入居6年以上で退去した場合、クロスの残存価値は1円のため、借主がクロス張替え費用を負担する必要はほぼありません。クロス張替え費用の詳しい相場はクロス張替え費用ガイドを参照してください。

部分補修と全面張替えで扱いが異なる部位がある

フローリングは注意が必要です。ガイドラインでは、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しないとされています。傷が1〜2箇所で部分補修が可能な場合、入居年数に関係なく補修費用の全額が借主負担になります。

一方、フローリング全体を張り替える場合は、建物の耐用年数(木造22年等)を用いて経過年数が考慮されます。フローリングの負担ルールの詳細はフローリング補修費用ガイドで解説しています。

耐用年数別の負担割合計算表

負担割合は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にある「残存価値1円となるような直線」を前提に考えます。計算式は「借主負担割合 = (耐用年数 - 経過年数) ÷ 耐用年数」です。たとえば耐用年数6年のクロスなら、1年経過で約83%、3年で50%、5年で約16.7%、6年以上で残存価値はほぼ1円になります。

部位・設備耐用年数の目安3年経過時の借主負担率6年経過時の扱い
クロス6年50%ほぼ1円
カーペット6年50%ほぼ1円
カーテン4〜6年25〜50%多くは残存価値小
畳床6年50%ほぼ1円
流し台5年40%耐用年数超過
設備機器15年80%60%

この表は、退去時点の年数だけで自動的に借主負担が決まるという意味ではありません。前提として、借主の故意・過失や善管注意義務違反にあたる損傷があることが必要です。経年劣化通常損耗にすぎない項目は、そもそも借主負担の計算対象になりません。

部位別の耐用年数一覧

主な部位・設備の耐用年数を一覧にします。見積書のチェック時に活用してください。各部材の耐用年数の詳細は耐用年数DBで確認できます。入居年数を入力すると全部材の残存価値率がわかる経年劣化控除の早見表も用意しています。

部位・設備耐用年数備考
クロス(壁紙)6年6年超で借主負担は実質ゼロ
クッションフロア6年クロスと同じ扱い
カーペット6年クロスと同じ扱い
エアコン6年6年超で残存価値は1円
襖紙・障子紙消耗品破損は借主負担
畳表消耗品表替えは通常損耗(貸主負担)が原則
システムキッチン15年故意・過失による損傷のみ借主負担
ユニットバス15年同上
便器・洗面台15年同上
フローリング(部分補修)考慮なし経過年数を考慮しない
フローリング(全面張替)建物の耐用年数木造22年、RC47年

耐用年数が6年の部位は、入居6年を超えると借主負担が実質ゼロになります。入居年数が長いほど退去費用は安くなるのが原則です。

各部位の費用相場については原状回復の費用相場ガイド部位別単価DBで詳しく確認できます。

A区分・B区分と特約の有効性 — ガイドラインの3分類体系

国土交通省ガイドラインでは、退去時の損耗を大きく3つに整理して考えます。見積書の各項目をこの分類に当てはめると、借主負担になるか、経過年数を考慮すべきかを判断しやすくなります。

A区分は、通常損耗・経年変化です。日照によるクロスの変色、家具設置による床のへこみ、冷蔵庫裏の電気ヤケなど、普通に暮らしていて避けにくい損耗が該当します。これらは賃料に含まれるものとして扱われ、原則として貸主負担です。見積書にA区分の項目が借主100%負担で入っている場合は、まず根拠を確認します。

B区分は、借主の故意・過失、善管注意義務違反、通常を超える使用による損耗です。引っ越し作業で付けた深い傷、飲み物をこぼして放置したシミ、結露を長期間放置して広がったカビ、ペットのひっかき傷などが典型です。B区分に当たる場合は借主負担になりますが、補修範囲が毀損箇所に対応しているかは別に確認します。

B+A区分は、借主負担の原因はあるものの、部材自体の経過年数を考慮する分類です。クロス、カーペット、クッションフロア、エアコンなどは、借主の過失で補修が必要になっても、新品交換費の全額ではなく、残存価値に応じた負担になります。クロスなら耐用年数6年を基準に、入居3年で約50%、6年以上で残存価値1円が目安です。

契約書に「退去時クリーニング費用は借主負担」「通常損耗も借主負担」といった特約がある場合でも、書いてあれば必ず有効というわけではありません。ガイドラインは、特約の必要性があり暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること、借主が通常の原状回復義務を超える負担だと認識していること、借主がその義務負担に明確に意思表示していることを、特約有効性の重要な要素として整理しています。

ガイドライン自体は法律ではないため、当事者が有効な特約を結んでいれば特約が優先されます。ただし、金額や範囲が曖昧な特約、説明がないまま通常損耗まで広く借主負担にする特約、一方的に過大な負担を課す特約は、民法や消費者契約法の考え方から無効と判断されることがあります。見積書を見るときは、「AかBか」だけでなく、「Bでも経過年数を考慮する項目か」「特約が3要件を満たしているか」まで分けて確認してください。

経過年数が考慮されない部位

すべての部位で耐用年数による控除が使えるわけではありません。国土交通省ガイドラインでは、畳表、フローリングの部分補修、ふすま紙、障子紙、建具、柱などは、経過年数の考え方になじみにくい部位として扱われます。これらは「何年住んだか」より、毀損箇所の範囲と補修方法が重要です。

フローリングに小さな傷を付けた場合、補修が2㎡程度で済むなら、その部分の実費が借主負担になることがあります。反対に、床全体の毀損で全面張替えが必要な場合は、木造22年、軽量鉄骨造の一部27年、RC造47年といった建物の耐用年数を踏まえます。部分補修で足りるのに全面張替えを請求されているときは、施工範囲を写真と明細で確認してください。

具体的な負担割合の計算例

計算は、補修範囲、単価、入居年数の3点をそろえると検証しやすくなります。

例1は、クロス10㎡を破損し、入居4年後に退去するケースです。クロスの耐用年数は6年なので、借主負担率は(6年 - 4年)÷ 6年 = 約33%です。

例2は、フローリング2㎡に家具移動時の深い傷を付けたケースです。部分補修で済むなら経過年数は考慮せず、補修実費の100%が借主負担と判断されることがあります。入居7年だからゼロ、とは言い切れません。

例3は、設備機器を誤使用で故障させ、入居10年後に交換費を請求されたケースです。耐用年数15年の設備なら、借主負担率は(15年 - 10年)÷ 15年 = 約33%。交換費15万円なら、借主負担の目安は約5万円です。

負担割合の交渉ポイント

交渉では、入居時の写真、退去立会い時の指摘内容、見積書の内訳を同じ順番で並べます。「クロス全面張替え」ではなく、どの壁面の何㎡か、経過年数控除が入っているかを確認してください。根拠は国交省ガイドラインと見積書の数字で示すと伝わりやすくなります。

請求額に納得できない場合は、退去費用の交渉方法で文面を整え、敷金から差し引かれているときは敷金返還請求書の書き方も確認してください。

見積書の負担割合をチェックする方法

退去費用の見積書を受け取ったら、以下のポイントで負担割合が正しく反映されているか確認してください。

経年劣化控除が入っているか

クロス張替え費用が「新品交換と同額」で請求されていないかを確認します。入居3年なら50%、入居5年なら17%が借主の負担割合です。控除なしで全額が請求されている場合は、管理会社に根拠を確認してください。

通常損耗まで借主負担にされていないか

A区分(貸主負担)に該当する損耗が、見積書にB区分として含まれていないかをチェックします。日焼けによる変色、家具の跡、画鋲の穴などが見積もりに含まれていたら、ガイドラインに基づいて貸主負担であることを伝えてください。

張替え範囲が適切か

クロスの張替えは「毀損箇所を含む一面分(壁1面)」が借主負担の上限です。壁の一部に傷をつけただけなのに部屋全体のクロス張替え費用が請求されている場合は過大請求の可能性があります。

退去費用全般の確認ポイントは退去費用が高いと感じたときの対処法で詳しく解説しています。ガイドラインの詳細は国交省ガイドライン解説を参照してください。

管理会社向けにさらに詳しく

管理会社側で負担割合の説明精度を上げる場合は、敷金精算テンプレートで控除根拠の見せ方をそろえ、原状回復見積もりの作り方で一式請求を部位別明細に分解してください。退去立会いの記録を標準化するなら、退去立会いチェックリストが使えます。

出典・参考文献


退去費用の見積もりが適正かどうか確認したい方は、賃貸リフォーム研究所の無料見積もりをご利用ください。経年劣化控除を反映した部位別単価の見積書をお出しします。

よくある質問

原状回復の負担割合はどう決まりますか?
国土交通省ガイドラインでは、部位ごとの耐用年数と入居年数から借主の負担割合を算出します。例えば6年耐用のクロスに3年入居した場合、借主負担は残存価値50%(=新品時価格の半額)になります。耐用年数を超えた部位は借主負担が1円〜10円程度の象徴的な金額に下がります。
経年劣化と通常損耗は借主負担ですか?
民法621条と国交省ガイドラインにより、経年劣化(時間経過による自然な劣化)と通常損耗(普通に使用していて生じる傷み)は貸主負担です。借主が負担するのは、故意・過失・善管注意義務違反・通常を超える使用による損耗のみです。
クロス・フローリング・畳の耐用年数は何年ですか?
クロス(壁紙)は6年、フローリングは経過年数を考慮しない(修繕費用を借主と貸主で按分)、畳は表替え6年・新調15年、カーペット6年、エアコン6年、ガス・湯沸器・温水洗浄便座6年などが目安です。
入居年数が長いほど負担額は減りますか?
はい。耐用年数に対して入居年数が長くなるほど残存価値が下がり、借主の負担割合が減ります。耐用年数を超えた部位は1〜10円程度の象徴的な金額のみとなり、実質的に借主負担はゼロになります。
見積書の負担割合をチェックする方法は?
見積書に「借主負担割合」「経過年数考慮」の記載があるか確認します。記載がなく100%借主負担になっている場合は、国交省ガイドラインに基づいた経年劣化の控除を求めましょう。減額交渉の根拠として『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を提示できます。

退去費用の見積もりに納得いかない方へ

国交省ガイドラインに沿った妥当性を、当社が無料で診断します。請求内訳を写真かPDFでお送りください。

退去費用を無料で相談

ガイドライン解説を読む →

退去費用を無料で相談